MHAカウンセリングベーシック講座 Ⅳ


✳️ 苦手なお客の対処法

苦手なお客の対処法を考えていきます。

まず前提に言っておきたいのが、

” 問題はお客にあるのではなく、こちらにあるということです ”

ここでは実際に対処法と言っても、心構えとかではなく

「このタイプ苦手だな・・」と思わないようにやっていくための

具体的なテクニックです。

自分が陥りやすい状況を思い出して、

心当たりがあれば参考にしてみてください。

新規客に入るにあたって、一番避けたいのは

『緊張感を感じさせること』です。

これは、人見知りだとかシャイだとか、

こちら側の問題であったり、相手がそうだったり・・

自分の緊張が相手に伝わったり相手のが伝わったり・・・

とにかく、最初に緊張を感じさせたら

その日の仕事は終わったと言ってもいいでしょう。

そこで、いきなり入客する前にまず深呼吸しましょう。

『鼻から3秒吸って、3秒息をとめて、口から7秒かけてゆっくり吐く』×3
(三三七拍子で憶えてください)

そのとき、ベルトのバックルの位置に意識を

集中するようにすると丹田呼吸法が出来て、

いつも以上に落ちついて焦らず対応しやすくなります。

緊張すると、呼吸が浅くなりますから浅くなったら、

その場から離れるくらいの余裕を持っていきましょう。

呼吸を整えて落ち着いて、左から入って、あいさつが終わったら

最初に見て欲しいのは、お客の『髪の分け目』です。

これは、美容師ですから当然だと思いますが

ここではもっと、別の理由で注目します。

お客の分け目が左の場合、あいさつした後は

左側にポジションを取って会話を始めます。

お客の分け目が右の場合、あいさつした後は

右側にポジションを取って会話を始めます。

お客の分け目が左の場合は、

すぐにカウンセリングを始めることをおすすめします。

お客の分け目が右の場合は、軽い世間話をしてから、

カウンセリングを始めることをおすすめします。

では、理由ですが

ここでは心理学の応用のお話です。

分け目がある方は、その人にとってオープンサイドであると言えます。

オープンサイドとは、オープンと言う名の通り

”心を開きやすい側”ということです。

こちらから話かけることで、こちら側の話を受け入れられやすくなります。

では、

左側の方の場合は、早く本題に入ることを望んでいる人が多いと言えます。

右側の方の場合は、少しお話ししてお互いの空気が

和んでから本題に入ること望んでいるといえます。

これは、『利己型と共有型』の違いが

「左と右の分け目」で解ることから説明できます。

しかし、「苦手だな〜こういうタイプの人・・」

誰しもあると思います。人間なので・・。

そう感じてしまう理由は人それぞれです。

ですから、

自分が陥りやすい状況を思い出して、

心当たりがあれば参考にしてみてください。

『お客の反応や態度が悪いタイプ』の場合は、どうしましょう。

カウンセリングに入って笑顔であいさつした時に

「うわ〜感じ悪い、こわ〜、こういうタイプ苦手〜」

と思ってしまった時の対処法です。

ポイントは3つ

1、まず笑顔をやめる

2、相手の目、顔、髪の順で10秒ほど何も言わずにじ〜っと見る

3、その中できれいだなと感じた部分を伝える

これで、完璧です。

相手の気持ちをぐぅーーっとこちらに引き込むことが出来ます。

1、2は簡単です。そのままやってみてください。

3、は例えば「お顔の輪郭がきれいですね」

「目の型がいいですね」「髪質と生え方がいいですね」etc

こんな感じで大丈夫です。

これが出来ると、お客の態度が一変します。

そうなるとお互いの空気が良くなりますから。

仕事は、気持ちよくやりたいですよね。
『何も言わないタイプ』の場合は、どうすればいいでしょう。

カウンセリングに入って、髪型の相談を始めても『反応がない人』

います。

何を言っても何を聞いても「えっ、はぁ・・」みたいな反応の人。

どうしたいの?何しにきたの?
どうしよう・・・。

こういう時は、いったん髪型の話やめましょう。

で、違う話でいきましょう。

例えば、「サロンに来る時はどうやって来られました?」
「シャンプーをするのは夜ですか?乾かしますか?」
「使ってるドライヤーはくるくるタイプですか?」 etc

とにかく『相手が答えられる質問』をぽんぽん聞いていきます。

出来るだけ間を空けず。

こうやって、相手が言葉を出すことに抵抗がなくなるように、慣らしていきましょう。

相手が考えないといけない様な質問は、なかなか答えられません。
特に、緊張と人見知りがある場合は!

心理学では、「スモールクエスチョン(小さな質問)」というのがあります。

まずは、小さな質問を積み重ねていって徐々に深い話を引き出せるようにしていきましょう。

あせらずに、軽い気持ちでいきましょう。

『知識をもつタイプ』の場合は、どうしましょう。

いろんな情報と中途半端に詳しいお客です。

このタイプは、美容師を信用していない為

こちらの話を聞かない上に

頑固なまでに自分の意見を通してきます。

だいたい ”イラッ” とします。

「じゃあ、言われた通りにします。」

と仕事に入って技術を進めていっても、

大抵仕上がりに納得がいかないという形で終わります。

それはそうですよね。

だって、お客には最後の仕上がりが見えていないから。

最後までわかった上で、行程に対して

いろいろ言ってくる人はほとんどいません。

正直、元美容師でもたぶん無理です。

こういうお客の攻略法は、まずすべて聞きます。

(嫌なら聞いているフリでもいい)

相手が持っているその知識と情報を

すべて吐き出さすことが大切です。

途中で間違ったことを言っていても、

突っ込むことも訂正することもしてはいけません。

「はい。うん。そうですね。」を使いながら全部出すまで。

で、終わったら何も言わずに考えているフリをします。

で、こちらが聞くことは『どういう雰囲気にしたいか?』

それは ”かわいい” のか ”かっこいい” のか

イメージは?

それは誰から見てそう見られたいのか?

ポイントは『感情』です。

そこを聞きながら、出てきた言葉を繋げながらイメージして、

そのイメージを形にする為に必要なメニューの話をしていきます。

そして今回使っていくテクニックはこれですね。

という、話をしていきます。

これで、お客のうんちくは封印されます。

というより、お客側も騙されたくないし不安でいっぱいな訳です。

お客を安心させるのは、

相手をやっつけるほどのこちらの知識の量ではなく、

心のこもった偽りのない真剣な気持ちと

仕事なのかもしれないですね。


✳️ カウンセリング(リッツ編)

 「上手く聞く、上手く伝える、ができているか」


担当美容師がやって来る。初対面だ。

どんな人だろう?

自分の注文をちゃんと聞き入れてくれるかな?

「このスタイルにはできませんねえ」なんて言われたら、どうしよう・・・。

担当者との最初の会話=カウンセリング。

緊張の瞬間だよね。

ヘアサロンから見ても、カウンセリング、つまり施術前の会話は、
サロンとお客様を結ぶ生命線ともいうべき大切なものだ。

お客様との意思の疎通がうまくいかないと、後のクレームの原因にも
なりかねない。

当然、お客様は二度と来てくれないだろう。

お客様が初めての方なのか、2回目、3回目なのかでは、
カウンセリングの仕方や内容は大きく変わる。

ヘアスタイル写真の切り抜き持参か、お任せをご希望か、
他店で失敗して来店されたのか・・・タイプはいろいろだ。


ここでは初めて来店されたお客様を対象にしたカウンセリングの
トークを見てもらいたい。


リッツ(担当美容師)
   「○○様ですね? 本日担当させていただきます○○です」

お客様「あ、どうも」
   (プロフィールはもらってるから、よく知ってるよ!)

リッツ「本日はカラー&カットがこ希望ですが、お望みのスタイルは
    お決まりですか?」
   (ここでは、切り抜き持参の場合を例に)

お客様「そうですね、こんな感じ(切り抜き写真)にしたいと
    思うんだけど」

リッツ「はい、わかりました。
    では、この(写真の)イメージで好きなところはどこですか?」

お客様「なんとなく雰囲気が好き、かな」

リッツ「では、○○のイメージにより近づけたいので、いくつか
    質問してよろしいでしようか?」

お客様「ええ」

リッツ「どのような人に見られたいですか?
    かっこいい人?
    それとも柔ららかな印象ですか?」

お客様「かっこいい感じ、かな」

リッツ「ファッションだったら、インテリジェンスを感じさせる
    かっこよさと、モード系のかっこよさ、どちらが好きですか?」

お客様「モード系、かな?」

リッツ「服の形や色の好みは、ソフトですか? シャープですか?」

お客様「ソフトだと思う」


(そしてこのあと、お客様に対してどんなヘアスタイルにしようと
しているかを説明する「デザイントーク」に入る・・・)

さて、カウンセリングで重要なのは、「聞く技術」と「伝える技術」だ。

「聞く技術」っていうのは、もちろんお客様の要望を汲み取る、
ということ。

オープン・クエスチョン(答えがイエス/ノーの形にならないもの)と
クローズド・クエスチョン(答えがイエス/ノーになるもの)を
使い分けることが大事だ。

たとえば、
「お望みのスタイルはお決まりですか?」(クローズド・クエスチョン)
という質問と、
「今日はどうしますか?」(オープン・クエスチョン)
という質問では、当然お客様の答え方が違うよね。

美容師は「能動態」でなければいけないから、一番最初の質問で、
お客様の具体的な答えを待つ「受動態」になってはいけない。

「今日はどうしますか?」では、その時点でお客様がスタイルを
考えなくてはいけないというプレッシャーがある。

スタイルをすべてお客様任せにしているということだ。


まずは「お望みのスタイルはお決まりですか?」と問いかけ、
すでに決まっているのか、そうでないのか、いろいろな答えの選択肢を渡し、
その中から望むスタイルを明確化していく。

その後で初めてオープン・クエスチョンを始める。

「どんなスタイルがお好きですか」
「絶対に切りたくない場所はどこですか」
「気になるところはどこですか」
というような質問だ。


デザイントークとは、文字どおりデザインを言葉にして表現するものだ。

お客様が望むデザインを提案する際に、わかりやすく伝える。

自分がそのデザインを提案する理由を伝える。

こだわりのある飲食店で、メニューにその料理へのこだわりが
書いてあるところがあるけど、あれと同じ。

また、テクニカルトークも、文字どおりスタイルをつくっていく際の
技術的な話や施術内容を、わかりやすく伝えるものだ。

飲食店の例えで言えば、
「この料理は何を使って、このように調理しました」
という説明が、これに当たるね。

もちろん、「どんなヘアスタイルになるんだろう・・・」
というお客様の不安を取り除くことが目的だ。


ここでとても重要なことは、美容師が、
「なぜならば・・・」
という言葉を言えるかどうか、ということだ。

「ではカラーはこんな色にしましょう。なぜならば・・・」
「パーマはこのくらいにしましょう。なぜならば・・・」

この「なぜならば」を言うことが、リッツのお客様に対するトークの
基本中の基本だ。

「なぜ、この色が似合うのか」
「なぜ、この長さが似合うのか」
それを説明していかなければならない。

「なんとなく」は許されない。

たとえば、カラーリングの際に、なぜその色が似合うのかをきちんと
説明できるよう、つまり似合う色をきちんと提案できるよう、
リッツではスタッフ全員、カラーアナリシスの勉強をしている。

トークにありがちな「世間話」を、僕たちは重視しない。

もちろん、コミュニケーションの潤滑油としてや、お客様の情報を
拾い出すための手段としては認められるだろうけど、少なくとも、
この「カウンセリング」の段階、ましてや初めてのお客様には、
ありえない。

リッツに来てくれるお客様の目的は、「きれいになりたい」という、
その一点に尽きるからだ。

会話を楽しみに来てくれているとは思っていない。

その目的「きれいになりたい」という願望を、すべて受容することが、
僕たちの仕事だ。


さて、これまで、初めてのお客様に向けてのカウンセリングを
例に話してきたけれど、実は、お客様の気持ちをつかむ秘訣は、
2回目の来店の際のカウンセリングにある。


◎2回目の来店時のカウンセリング◎

リッツ(美容師)
   「なにか問題点はありましたか?」
   (前回のカルテを参考に)

お客様「別になかったけど・・・少し重くなった感じかな・・・」

リッツ「前回のスタイルでよろしいですか?」(あるいは)
   「スタイルを変えますか?」(あるいは)
   「今のスタイルで、ちょっとだけ変えますか?」

お客様「ちょっとだけ変えたいです」
   (こう答えるお客様が一番多い)


リッツ「前回は○○○○だったので、○○でしたが、今回は○○○な
    スタイルはいかがですか? なぜならば・・・」
   (以下、デザイントークに)


1回目がお客様に満足してもらったからといって、前回と同じ注文に
応えるというだけの「受動態」になってはだめだ。

2回目は、違う角度からお客様を分析して、そのスタイルがどれだけ
似合っているかどうか、また、もっと似合いそうなスタイルがあるか
どうかなど、より提案型にならなければいけない。


こちらはお客様のことはわかっている。
だから今度は、お客様に、自分の新しい魅力に気づいてもらうことが大事だ。



(「すべては記憶に残るサービスのために」金井豊著より)